いよいよメタボ検診も始まり、近頃テレビや新聞などでメタボリックシンドローム等の特集や報道が組まれています.高血圧症・高脂血症・糖尿病など医学の進歩にともない様々な良い薬剤が開発・発売されていますが、やはり患者さんの生活習慣の改善が大切かと思います.そこで今回は、主に高血圧症を中心とした生活習慣の改善についてお話したいと思います.
まずは減塩について説明します.高血圧は多くの場合、原因のはっきりしない本態性高血圧とされています.以前は加齢に伴う血圧の上昇や動脈硬化の進行は生理的変化であり、本態性高血圧は体質の関与が大きいとされていました.ところが最近、塩分を摂取しにくい土地で生きるマサイ族などの血圧は生涯ほとんど変化しないことが判ってきました.彼らは野菜や肉類などに含まれる食品から塩分を摂取しており調味料などからの塩分摂取がほとんど無いことから、本態性高血圧も過剰な塩分摂取の影響が大きいと考えられます.
高血圧症学会では欧米並みに一日6gの食塩摂取量を勧めておりますが、国民栄養調査による中高年者の一日平均食塩摂取量は12g前後と報告されています.和食を中心とした食生活の中でいきなり最初から半分の6gに減らすことはかなり厳しいでしょうか….
先日もお昼に外食したところ、メニューの表示で5.4gの塩分を摂取していました.無理な減塩は食欲がなくなり、QOL(日常生活の質)の低下を招く心配があります.まずは8g前後の食塩摂取を目標に始めたら如何でしょうか.
インターネットで“食品の塩分量”といったキーワードで検索すれば様々な食品中の塩分量が簡単に判りますので個々の食品中の塩分量についての説明は割愛しますが、例えばラーメン一杯をスープごと飲み干したり、アジの干物などを食べれば1回の食事で一日の食塩摂取量の半分以上を摂取することになります.また、かまぼこなどの練り物(ちくわ一本で2.3g)や食パン(一枚で1g)なども想像以上に多いことを覚えておいてください.ただし、塩分を身体から排出する食品もあります.カリウムを多く含む食品です!
アボガドや里芋、切り干し大根など‥.腎臓病などの病気やお薬によってはカリウムを多く摂ると悪くなる場合がありますので注意が必要ですが、塩分を多く摂ったなぁと思われた時にはこれらの食品を摂ることをお勧めします.
私も「みそ汁は薄めて飲んで味気が無いようでしたら、量を1/2にして下さい.おかわりはやめましょう」と説明しています.また、山椒、胡椒、唐辛子、レモン汁、酢などを上手に使い、調理済みの食品にしょうゆやソースの使用を出来るだけ少なくすることを勧めています.薄口しょうゆと濃い口しょうゆでは、ほとんど塩分はかわりませんよ!薄口しょうゆと減塩しょうゆと混同しないで下さいね.
もう一つ食事で関係することに減量があります.私も‥太るのは簡単ですが減量の大変さを痛感している一人です.太っている高血圧症のかたが減量すれば、降圧薬に匹敵する効果があります!1kgの減量で収縮期血圧(上の血圧)、拡張期血圧(下の血圧)ともに1.7mmHgぐらい下がると言われています.いきなりハードルを高くせずに、まずは1年に2~3kg(血圧は4~5mmHgくらい下がります)の減量を目標にすれば如何ですか?
ある先生からの受け売りですが… 主食を始める前にノンオイルドレッシングをかけた青菜サラダを食べたり、キシリトールガムを食前に数分間かけて噛むことで食欲が落ちるそうです.そのような工夫も面白いですね.ゆっくり食事をすることも大切です.
アメリカで野菜と果物を多くしたDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertention)Dietによる研究が行われ、通常の食事とカロリーとナトリウム摂取量が同じでも収縮期血圧が10mmHg以上、拡張期血圧が5~6mmHg下がったそうです.低脂肪でカリウムが豊富な食事になりますからお勧めです.
体脂肪1gは7kcalと言われています.7000kcalを毎月減らせば理論的には7000÷7で1000gすなわち1kgの減量が可能です.7000(kcal)÷30(日)=233.3で一日250~300kcalの食事を減らせることが出来れば無理な話ではないですね!
エネルギー制限のみだけでは、低カロリー食に身体が順応し減量のスピードが鈍くなり、その状態で少し余計に食べてしまうだけで体重が増えてしまうことがあります.やはり運動療法が必要になってきます.
“さっさ歩き”の散歩などで一日200kcalを消費することが推奨されています.たとえば体重が60kgのひとが1時間比較的速く歩くペースで歩けば180kcalになります.まとめて行う必要はなく朝・夕30分ずつに分けてみては如何ですか?エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を利用したり散歩だけでも良いですので、上半身を時々動かしながら楽しく歩くことを心掛けたらどうでしょう.
最後に禁煙・節酒があります.禁煙は当然のことです!禁煙することで体重が増加してその結果血圧も上がることが多いと思います.しかし、高血圧の最終治療目標は心血管系疾患の危険を減らすことですので、タバコを吸いながら血圧を下げようとする努力をしても無意味なことですよね.
また、アルコールで酔っているときに血圧は下がっていますが、酔いが覚めたときの翌朝の血圧は上がっています.翌朝の血圧を上げないアルコールの量はエチルアルコールで25ml(女性はその半分)と言われています.ウィスキーのダブル60mlや焼酎100mlでエチルアルコール25mlですから、ちょっと少ないかな‥
すべてをきっちりやることは難しいかも知れません!また生活習慣の改善は、あれもダメ、これもダメとなりがちですが、今回の“診察室より”を読んでいただき、日常生活のなかで“このチーズを全部食べるとどのくらいの塩分になるのかな”といった食品のパッケージに書かれている塩分量の内容を見たりして、少しでも関心を持ちながら生活を楽しんで下さい.