痔は痔疾(じしつ)・痔核(じかく)ともいい肛門部周辺の静脈が圧迫され血液の流れが滞ることによって起こる疾患です.このコーナーで一番初めに述べた私の専門である下肢静脈瘤も二足歩行のヒトに特有な静脈の血流が滞る病気で、元を辿れば同じような機序で起こります.痔は 「ぢ 」とも表記し 「痔 」の薬で有名なヒサヤ大黒堂が用いたため広まったといわれています.(個人的には 「じ 」より、なんか 「ぢ 」のほうがリアルで好きですけどね…)
痔の病気を理解するためには肛門部の特徴や解剖を簡単に説明しなければなりません.なるべく簡単に解りやすく説明しますのでご理解下さい.直腸や肛門付近の血管は、心臓の方向に血液を送っているために、普段から非常に大きな圧力がかかっています.痔を予防するためのポイントで改めて説明しますが、普段から大きな圧力がかかっているところに長時間の立ち仕事、便秘、さらに女性では妊娠・出産などでさらに肛門部に圧力がかかります.肛門部には歯状線と呼ばれる肛門の出口から約1.5cm奥に直腸と肛門の境界線があります.歯状線より奥を直腸、手前を肛門と呼んでいます.肛門は皮膚に似た組織で被われているため痛みを感じる知覚神経が存在し、機械的刺激に耐えられるよう丈夫であり出血しにくくなっています.一方、直腸は肛門と異なり知覚神経が存在せず、腸粘膜で被われているためにもろく出血が起こりやすくなっています.この歯状線を挟んで直腸側と肛門側に静脈叢と呼ばれる網目のように存在する血管(痔静脈)の塊があります.また、歯状線のところには肛門小窩と呼ばれる小さなくぼみが約10カ所あり肛門腺が開口しています.ここに細菌が侵入すると肛門周囲膿瘍という“おでき”が発症し、痔瘻へと進行することがあります.何となくイメージがつきましたか?それではいよいよ疾患の説明をいたします.
痔(痔核)は静脈叢が膨らんでコブ状になったもの(静脈瘤)が本体です.この静脈瘤から出血したり、肛門の外に脱出したり、血栓(血豆)を作って腫れるなどの症状が発生します.歯状線を境に直腸側にできたものが内痔核、肛門側に出来たものが外痔核と呼びます.解剖のところで説明したように発生する場所によって症状が異なり、内痔核は出血が主症状であまり痛みは伴いません.一方、外痔核は痛みが主症状で出血はあまりありません.俗に言うイボ痔とは医学的には血栓性外痔核というもので、肛門の入り口に大豆大のコリコリとした血マメを触れます.イスに座れなくなるくらいの痛みが現れることがあります.
痔の治療と言うと皆さんはすぐに手術されると思って来院してきます.後で述べる予防のポイントに注意して生活し、主に外用薬(ロケット型の座薬や一回ずつ使用する軟膏)を用いて2,3ヶ月の経過を診ます.これでもなお治りが悪いようであれば手術を考えます.血栓性外痔核では痛みが強いために局所麻酔をして血マメを取る簡単な手術をすれば症状は取れます.局所麻酔でも手術が嫌だというかたは、ゆっくりお風呂につかり血マメを揉みほぐすようなマッサージをすれば柔らかくなり吸収されるかも知れません.内痔核の症状・治療法について表にまとめてみました.3度・4度の脱肛となると手術治療の適応となりますが、患者本人が脱肛を気にしなければ手術の適応とはなりません.
程度 | 1度 | 2度 | 3度 | 4度 |
症状 | 排便時に腫れる、出血 | 排便時に脱出するが自然に戻る | 排便時に脱出するが手で戻さなければならない | 排便時に常に脱出して戻らない |
治療法 | 座薬・軟膏治療 | 座薬・軟膏治療
ゴム輪結紮治療 手術治療 |
注射療法 手術治療 |
手術治療 |
次は裂肛(切れ痔)について説明します.裂肛は文字通り歯状線と肛門の間の粘膜(肛門上皮)が裂けて症状が発現します.知覚神経がきているために痛みが強く出現し排便後数時間に及ぶ痛みが続くことがあります.放置しておくと肛門狭窄や肛門潰瘍を生じ手術の必要が出てきます.原因は想像すれば判ると思いますが、硬い便が急に出て肛門上皮が切れるために起こります!やはり予防法は硬い便が出ないように食生活の改善、便秘の治療(理想的には練り歯磨きの柔らかさ!)を行い、軟膏による治療を行います.軟膏治療は排便後と入浴後や寝る前の一日2回の塗布で良いでしょう.
続いて肛門周囲膿瘍と痔瘻についてお話しします.肛門周囲膿瘍は肛門小窩というくぼみが細菌の入り口となって、いわゆる“おでき”のような病気が出来て肛門周囲が腫れて膿がたまって痛くなった状態です.このような急性期には局所麻酔下に切開排膿や注射器で吸って膿を排除する必要があります.しこりから膿が自然にはじけてしまうこともありますが、後に膿のみの通り道(トンネル)ができて痔瘻を形成します.痔瘻を形成すると治りにくくなるため手術の必要があります.緊急性はありませんがトンネルが複雑化したり10年以上の活動例では癌化したりすることもあるので速いに超したことはありません!
最後に痔を予防するためのポイントを説明します.
- 毎日お風呂に入りましょう 肛門の血行が良くなり、清潔になります.
- 便秘にならないように気をつけましょう.痔核や裂肛の原因となります.長時間、強く無理にいきんでしまう硬い便は禁物です!理想は練り歯磨き柔らかさ!
- 下痢にも注意しましょう
- 長時間のドライブや同じ姿勢を続けないようにしましょう.肛門に血液がうっ滞し痔核の原因となります.休憩や時々歩くなどして肛門の血流を良くしましょう.
- おしりを冷やさないように注意しましょう.おしりを冷やすと血流が悪くなります.
- アルコールや刺激物は避けましょう.アルコールは血流を良くし出血を助長します.またキムチなどの辛いものやコショウなどの刺激物は、便に混ざって出てくるために“痛み”や“腫れ”の悪化の原因となります.
- 医師に相談して正しい診断を受けましょう.肛門からの出血で痔だと思っていたら直腸癌であったなんてことは結構あります!
これで“痔のはなし”は終わりますが理解できましたか?恥ずかしがらず相談・診察を受けましょう.当院には手術を行う施設はありませんがゴム輪による結紮機械はあり、多くの患者さんに対応出来ると思います.柏地区には東葛辻仲病院という大腸・肛門疾患で有名な専門病院がありますので紹介いたします.診察を受ける前の患者さんの心掛けを述べて終わりにしたいと思います.
診察の当日は排便を済ませて受診して下さい.ただし、下剤の服用や浣腸は腸の粘膜を刺激してしまい診察が難しくなるので避けましょう.睡眠を充分にとり朝食をしっかり摂って朝からスムーズな排便が出来るように心掛けて下さい.